ジェフユナイテッド市原・千葉が、ついに17年ぶりのJ1復帰を決めました。明治安田J1昇格プレーオフ2025決勝は、フクダ電子アリーナで行われた徳島ヴォルティスとの一発勝負。引き分けでも昇格というレギュレーションの中で、千葉は69分のカルリーニョス・ジュニオのヘディング弾で1-0の勝利をつかみ取り、“フクアリの昇格決戦”を制しました。
2009年のJ2降格から17年。何度もプレーオフで涙をのんできたクラブが、準決勝のRB大宮戦での0-3から4-3の大逆転劇、そして決勝での完封勝利と、ドラマに満ちた2試合を経て悲願を達成しました。
試合情報:明治安田J1昇格プレーオフ2025 決勝
得点
- 69分 カルリーニョス・ジュニオ(千葉)
主なスタッツ
- シュート千葉 11 – 16 徳島
- CK千葉 1 – 4 徳島
- FK千葉 12 – 8 徳島
※データはJリーグ公式サイト掲載の試合結果・データに基づくものです。
徳島の堅守を崩せず、スコアレスの前半
千葉はリーグ3位、徳島は4位。レギュレーション上は千葉が引き分けでも昇格という状況でしたが、小林慶行監督は「勝って決める」姿勢を前面に押し出してスタートしました。立ち上がりからボールを握ったのは千葉。右サイドの杉山直宏や、中央で起点になる田口泰士を軸に徳島ゴールに迫ります。
しかし、徳島は今季J2で最少失点クラスの堅守を誇るチームらしく、最後の局面で身体を投げ出してブロック。千葉は6分のカルリーニョス・ジュニオの決定機など、ゴール前で惜しいシーンを作りながらもネットを揺らせません。一方の徳島も、アンデルソンら前線の個人能力を生かしてカウンターからシュートまで持ち込み、フクアリ全体が息を呑むような展開に。
35分には、かつて千葉にも在籍した徳島DF山越康平が警告を受けるなど、球際の激しさも増していきます。互いにチャンスを作りながらも、前半は0-0で折り返し。スタンドには「あと1点」という期待と、「失点できない」という緊張感が同居する45分となりました。
徳島の圧力とクロスバー、そしてC・ジュニオの決勝ヘッド
後半に入ると、勝たなければ昇格できない徳島が一気にギアを上げます。セカンドボールを回収して押し込む時間帯が続き、ミドルシュートやセットプレーから千葉ゴールを脅かしました。特にアンデルソンのシュートがクロスバーを直撃した場面は、千葉にとって冷や汗もののシーンでした。
流れを変えたのは、66分の交代でした。小林監督は杉山に代えて17歳のMF姫野誠を投入。準決勝・RB大宮戦でも0-3からの大逆転の流れを生み出した“ゲームチェンジャー”は、この日も積極的な仕掛けと運動量でチームにスイッチを入れます。
そして69分、ついにスコアが動きます。右サイドで高橋壱晟が少ないタッチでボールを受け、やや高めにふわりとしたクロスをゴール前へ送ると、カルリーニョス・ジュニオがタイミングよくニアへ飛び込み、鋭いヘディングでゴール右隅へ。GKの手も届かないコースに突き刺さった一撃は、17年分の悔しさを晴らす“値千金”の決勝ゴールとなりました。
先制後は徳島が総攻撃を仕掛け、交代カードを切りながらパワープレー気味に押し込みますが、千葉は鈴木大輔ら最終ラインが体を張った守備で対応。89分には途中出場の姫野がイエローカードを受ける場面もありながら、チーム全体でリスクを管理しつつ時計を進め、90+数分のアディショナルタイムも凌ぎ切ってタイムアップの笛を聞きました。
スタッツが示す拮抗したゲームと、勝敗を分けたワンプレー
シュート数は千葉11本、徳島16本と、数字上はアウェイの徳島が多く放っています。一方で、決定機の質とゲームのコントロールという意味では、千葉がリードを許さずに試合を進めたことが大きなポイントでした。特に、徳島が勢いに乗りかけた時間帯でクロスバーに救われたシーンの直後に、千葉が決勝点を奪えたことは、この試合の流れを象徴しています。
千葉は引き分けでも昇格が決まる状況でしたが、「守り切るだけ」ではなく、自ら勝ちに行く姿勢を貫いたことで、より価値ある1-0というスコアにたどり着きました。
小林慶行監督のコメント要旨:「難しい時間も、クラブを愛してもらえるか」
試合後のフラッシュインタビューで、小林慶行監督は「めちゃくちゃうれしいですし、めちゃくちゃ疲れました」と安堵の笑みを浮かべつつ、17年という時間の重さに触れました。そのうえで、「J1は決して簡単な舞台ではなく、来季も難しい時間が必ず来る。それでもクラブを愛し続けてもらえるかどうかが大事だ」といった趣旨のメッセージをサポーターに投げかけ、スタンドから大きな拍手を受けました。
“昇格して終わり”ではなく、“ここからがスタート”という姿勢を示した指揮官の言葉は、J1で戦うジェフ千葉の覚悟そのものと言えます。
キャプテン鈴木大輔、カルリーニョス・ジュニオ、姫野誠――ヒーローたちの声
主将のDF鈴木大輔は、試合後のインタビューで目に涙を浮かべながら、クラブに関わってきた多くのOBやスタッフ、そして長く支え続けてきたサポーターへの感謝を強調しました。また、「引き分けでいいと考えるのではなく、勝って昇格を決めるマインドでこの試合に入った」と語り、チーム全体で攻めの姿勢を貫いたことを誇らしげに振り返っています。
決勝点を決めたカルリーニョス・ジュニオは、「ジェフがいるべき場所に戻すために来た」と繰り返し語ってきた助っ人。その言葉どおり、シーズン終盤からプレーオフにかけてチームの得点源となり、この大一番でも結果を残しました。試合後のコメントでは、自身のゴール以上に「チームメイトやスタッフ、サポーターへの感謝」を強調し、謙虚な姿勢を見せています。
そして、準決勝に続いて決勝でも流れを変えた17歳のMF姫野誠。“フクアリの奇跡”と呼ばれたRB大宮戦の大逆転劇の年に生まれた世代の象徴とも言える存在は、「このピッチに立てたこと自体が幸せ。もっと試合に出て、もう一度『強いジェフ』を見せたい」と、早くも来季への決意を語っています。
0-3からの大逆転を経てつかんだ「17年ぶりのJ1」
プレーオフ準決勝・RB大宮戦では、0-3という絶望的なスコアから4-3の大逆転勝利を収め、フクアリの雰囲気を一変させました。その立役者となった姫野やカルリーニョス・ジュニオが、決勝でも存在感を示したことは、クラブの新しい“物語の主人公”が生まれつつあることを示しています。
長いJ2生活のなかで積み重なってきた悔しさや、幾度となく味わったプレーオフ敗退の記憶を乗り越え、千葉はついにJ1の舞台へ戻ります。歴史的な逆転劇と、決勝での完封勝利。この2試合で見せたチームのメンタリティは、来季J1で戦ううえでも大きな財産となるはずです。
徳島ヴォルティスが示したクオリティと、あと一歩届かなかった昇格
敗れた徳島ヴォルティスも、内容面では決して劣ってはいませんでした。シュート数で上回り、後半の立ち上がりには主導権を握る時間帯を作るなど、リーグ戦同様に組織された守備と切れ味鋭い攻撃を披露しました。クロスバーを叩いた決定機がゴールに繋がっていれば、試合展開はまったく違うものになっていたかもしれません。
増田監督は試合後、自身の采配の責任に言及しつつも、選手たちの戦いぶりを称えました。昇格まであと一歩届かなかった悔しさはありますが、シーズンを通じて見せた守備の安定感とゲームプランの完成度は、来季以降の大きな武器となるでしょう。
来季J1で問われる「ジェフらしさ」と強化ポイント
来季は千葉と柏の2クラブがJ1に揃う「千葉ダービー元年」となります。千葉にとっては、J1のスピードやフィジカルにどこまで対応できるかが最初のテーマになりますが、今季のプレーオフで見せたようなアグレッシブな守備と前向きなトランジションは、上位クラブ相手にも十分通用するポテンシャルを感じさせました。
一方で、90分を通して試合をコントロールするゲームマネジメントや、拮抗した試合での決定力の部分は、J1の強豪と比べるとまだ伸びしろの大きいポイントです。今オフの補強と、若手のさらなる台頭次第では、「残留争い」ではなく「上位進出」を現実的な目標にできる可能性も十分あります。
17年ぶりのJ1という大舞台に戻ってきたジェフユナイテッド市原・千葉。フクアリで何度も積み重ねてきた歓喜と悔しさを胸に、どんな物語を紡いでいくのか——2026シーズンのJ1で、その答えが示されます。
