静かに迫る雪不足の時代 ― 気候変動が冬季競技に与える影響

WINTER SPORTS

2025年11月17日

COLUMN 07
CLIMATE
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静かに迫る雪不足の時代 ― 気候変動が冬季競技に与える影響

気候変動 冬季スポーツ サステナビリティ

「雪のある冬」は、当たり前ではなくなりつつある。気温の上昇や降雪パターンの変化は、 スキー、スノーボード、スケートといった冬季競技の開催環境を静かに、しかし確実に変え始めている。 ミラノ=コルティナ2026以降、冬季スポーツはどんな現実と向き合っていくのだろうか。

■ 「冬らしい冬」が短くなるとどうなるのか

気候変動が進むと、平均気温が上がるだけでなく、降雪のタイミングや量も変化していく。 その結果として、「雪が積もる期間が短くなる」、あるいは「一気に降って一気に解ける」 といった極端なパターンが増えやすくなる。

これは、雪を前提とした競技にとって致命的だ。大会のスケジュールが組みにくくなり、 シーズンの開幕が遅れたり、途中で雪不足のために中止になったりするリスクが高まる。

■ 競技そのものへの具体的な影響

雪や氷のコンディションは、アスリートのパフォーマンスに直結する。例えば――

  • ● 気温が高いと雪が重くなり、スピード系競技でタイムに影響が出る
  • ● 凍結と融解を繰り返した雪面は不規則になり、転倒や怪我のリスクが増す
  • ● 氷上競技でも、リンクを維持するための冷却コストが上昇する

こうした環境の変化は、単に「やりにくくなる」というレベルではなく、 ルールや安全基準そのものを見直す必要が出てくる可能性も含んでいる。

■ 人工雪とエネルギーのジレンマ

雪不足に対する即効薬として使われるのが人工雪だ。しかし人工雪の大量生産には、 大量の水とエネルギーが必要になる。気候変動対策が求められる時代に、 「雪を作るためにCO₂を増やしてしまう」というジレンマも存在する。

そのため最近では、より効率的なスノーマシンの導入や、再生可能エネルギーを活用した運営など、 負荷を減らしながら大会を成立させる工夫が模索されている。

■ 開催地の選び方も変わり始めている

将来の大会では、標高が高く気温が安定して低いエリアが選ばれることが増えるかもしれない。 すでに国際競技連盟や研究機関は、「将来も冬季大会が安全に開ける地域」に関する分析を行い、 データをもとに開催候補地を検討する動きも出ている。

つまり、冬季スポーツの地図は、気候変動とともに書き換わりつつあるのだ。

■ 選手のコンディショニングも“気候対応型”へ

アスリートの準備も、かつての「カレンダー通り」では通用しにくくなっている。 雪が遅くまで降らない年はオフシーズンが長引き、逆に急な寒波で一気に積雪することもある。

そのため、陸上トレーニングや室内施設を活用した「雪がなくてもできる準備」がますます重要になっている。 シーズン中も、気温や雪質の変化を見ながら用具選びや戦略を微調整するなど、 柔軟な対応力が求められている。

■ スポーツが発信できるメッセージ

冬季オリンピックには、単に競技を行うだけでなく、世界にメッセージを発信する役割がある。 気候変動というテーマは、その中でも避けて通れないものだ。

サステナブルな大会運営、環境負荷を抑えた施設整備、地元コミュニティと連携した自然保護活動――。 こうした取り組みを通じて、冬季スポーツは「雪や氷のある世界を守る意義」を伝えることができる。

競技を守ることは、雪や氷とともにある文化を守ることでもある。
私たちが冬のスポーツを楽しみ続けたいと願うなら、 その前提となる環境にも目を向ける必要がある。 ――気候変動は、スポーツの外側の問題ではなく、「今ここ」の課題だ。