去りゆく名手たち――中田翔・長野久義・川端慎吾、それぞれの“最後の一打席”

NPB

2025年11月22日

2025年シーズンは、日本プロ野球の一つの時代が静かに幕を下ろした年でもあった。中日ドラゴンズの中田翔、読売ジャイアンツの長野久義、東京ヤクルトスワローズの川端慎吾――三者三様のスタイルでファンを魅了してきたベテランたちが、相次いで現役引退を決断したのである。

中田翔:両球団から胴上げされた“豪打の背番号6”

中日は9月上旬、通算300本塁打超・打点王3度の実績を誇る中田翔が今季限りで現役を退くことを公式発表した。そのラストゲームとなった9月19日・バンテリンドームナゴヤでのヤクルト戦では、4番・一塁で先発出場。結果としてヒットは生まれなかったが、全打席に込めたフルスイングは、これまでの野球人生そのものを象徴していた。

試合後の引退セレモニーでは、ドラゴンズだけでなく、かつて長く在籍した日本ハム時代の同僚・関係者からのメッセージも紹介され、スタンドは温かい拍手に包まれた。最後には、中日ナインと日本ハムOBらによって6度の胴上げが行われ、背番号6が宙を舞うたびに、場内から「ナカタ」コールが沸き起こった。

中田はマイクを握ると、これまで支えてくれた家族、チームメイト、ファンへの感謝を繰り返し口にし、「たくさん迷惑もかけたが、野球を通じて成長させてもらった」と、少し照れくさそうな表情で締めくくった。豪快な本塁打とともに、時に不器用で人間味あふれる姿も含めて、多くのファンの記憶に残り続けるだろう。

長野久義:通算1512安打、紳士的スラッガーの“最高の野球人生”

巨人は、外野手・長野久義の引退を受け、特設サイトを立ち上げてそのキャリアを丁寧に振り返っている。ドラフト1位で入団した2009年から16年間で通算1512安打、打率.280、163本塁打、623打点、99盗塁。新人王、首位打者、最多安打、ベストナイン、ゴールデングラブ賞など、タイトルと表彰が並ぶ華やかな実績だが、ファンの記憶に残るのはむしろ“ここ一番”での勝負強さと、常に周囲への気配りを忘れない姿だ。

10月14日の引退会見では、多くのOB・現役選手が会場に駆け付けた。本人は「本当に周りの人たちに恵まれて、最高の野球人生だった」と涙をこらえながら語り、その言葉通り、会見場は「長野を送り出したい」という空気で満ちていた。

11月23日に行われる「ジャイアンツ・ファンフェスタ2025」では、ファンの前であらためて引退セレモニーが行われる予定だ。かつてのサヨナラ弾、首位打者争いの一打、日本シリーズでの勝負強さ――それらのハイライトが、東京ドームの大型ビジョンに映し出されるとき、スタンドにはきっと万雷の拍手と、少しの寂しさが入り混じることだろう。

川端慎吾:芸術的なバットコントロールと1100本目の“ラストヒット”

東京ヤクルトスワローズの川端慎吾は、9月27日に球団事務所で引退会見を行い、20年に及ぶプロ生活に幕を下ろす決断を明かした。会見では、長年バッテリーを組んだ中村悠平、チームの主力として歩んできた山田哲人らがサプライズで登場し、花束を手渡す場面も。川端は、家族やチームメイトへの感謝、二度にわたる腰の大手術を乗り越えた日々を振り返りながら、「良いことも悪いことも全部が財産」と穏やかな笑顔で語った。

そして、引退表明後に迎えた本拠地・神宮での最終カード。9月27日の広島戦、7回二死で代打として打席に立った川端は、甘く入った直球を逃さず右翼線へ弾き返し、現役通算1100安打目となる二塁打をマークした。ベース上で右手を高く突き上げる姿に、スタンドのファンだけでなく、ベンチの仲間たちも笑顔と涙で応えたという。

監督として川端を見続けてきた髙津臣吾は、神宮最終戦の挨拶の中で「彼の1100本のヒットはどれも美しく、彼らしい」と語り、なかでも日本一を決めた2021年日本シリーズでのサヨナラ打を「最高の1本」と評した。バットコントロールの妙と、勝負どころでの集中力――川端の打撃は、今後も“職人”の代名詞として語り継がれていくに違いない。

数字以上に残したもの:三人のレジェンドが遺した“姿勢”

中田翔は、豪快な本塁打とともに、時に苦悩しながらも前に進み続ける姿で多くのファンに勇気を与えてきた。長野久義は、チームの勝利を最優先しながら、どんな場面でも笑顔を忘れない“巨人の紳士”として愛されてきた。川端慎吾は、度重なる故障を乗り越え、最後まで謙虚さと探究心を失わない打撃職人だった。

彼らが残したものは、ホームランや安打の本数といった数字だけではない。プロの世界で長く生き残るために必要な準備、チームメイトやスタッフへの敬意、そしてスタンドで声を枯らして応援してくれるファンへの感謝。その一つひとつが、次の世代へと確実に引き継がれていく“財産”である。

来季、グラウンド上に彼らの背番号はない。しかし、球場のどこかで、ふとした瞬間に思い出すはずだ。「この場面で中田ならどう打つか」「ここで長野ならどんなスイングを見せるか」「川端ならどのコースを狙うか」。プロ野球の魅力は、こうして世代を超えて積み重ねられていく。

X・YouTubeで振り返る“最後の勇姿”

最後に、公式アカウントによるポストや球団公式YouTubeの動画を紹介する。引退会見やセレモニーの空気感は、テキストだけでは伝わりきらない部分も多い。時間のあるときに、ぜひ映像でも三人の“ラストシーン”を味わってほしい。