WINTER NOTE|ミラノ・コルティナへ――高梨沙羅、四度目の五輪が「確実」になった夜。
中国・張家口で行われたFISスキージャンプ女子ワールドカップ第18戦。ヒルサイズHS140メートルのラージヒルは強風に翻弄され、勝負はまさかの「一本勝負」となりました。そんな難しい条件のなかで、高梨沙羅(クラレ)は123.5メートル、合計86.8点で4位。表彰台まであと一歩に迫るジャンプで、この冬のテーマでもある「積み上げてきたもの」を静かに示しました。
張家口・第18戦――風に揺れた台で見せた「4位」の意味
1月17日に行われた張家口大会は、日本女子にとってミラノ・コルティナ2026冬季五輪の最終選考レースでもありました。強風のため2本目はキャンセルとなり、1本目の成績で順位が確定。丸山希(北野建設)が125.5メートル・94.7点で3位と2戦連続の表彰台。高梨はそのすぐ後ろの4位に続きました。
数字だけを見れば「また表彰台にわずかに届かず」の4位。しかし内容は決して暗くありません。昨季は自身のワールドカップキャリアで初めて表彰台ゼロに終わり、フォームの見直しとアプローチの修正に時間を費やしたシーズンでした。今季はまだ表彰台こそないものの、4位と5位がそれぞれ2回、Falunのラージヒルでも4位と、上位常連として戻りつつあります。
四度目の五輪へ――丸山・高梨・勢藤・伊藤の4人が代表入り「確実」に
張家口での一戦をもって、全日本スキー連盟が定めた女子ジャンプのミラノ・コルティナ五輪代表選考対象大会はすべて終了。代表推薦基準を満たしたのは、
- 丸山希(北野建設)
- 高梨沙羅(クラレ)
- 勢藤優花(オカモトグループ)
- 伊藤有希(土屋ホーム)
この4人の代表入りが「確実」と報じられています(正式発表は後日)。高梨にとっては、ソチ2014から続く4大会連続の五輪。2026年のミラノ・コルティナは、29歳で迎える節目の大会となります。
女子W杯 2025-26 総合順位(第18戦終了時点の概要)
今季の女子ワールドカップ総合ランキングは、スロベニアと日本を中心にハイレベルな争いが続いています。第18戦終了時点の上位と、高梨の順位は次の通りです。
| 順位 | 選手 | 国 | ポイント | メモ |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | ニカ・プレブツ | スロベニア | 1466 | 今季9勝で独走 |
| 2位 | 丸山希 | 日本 | 1106 | 今季5勝、日本エースへ台頭 |
| 3位 | リサ・エダー | オーストリア | 877 | 安定して表彰台争い |
| 4位 | アンナ・オディネ・ストロム | ノルウェー | 782 | ノルウェーの新エース |
| 9位 | 高梨沙羅 | 日本 | 536 | 日本人2番手、通算W杯63勝のレジェンド |
かつては「勝ちまくる高梨と、追いかける世界」という構図でしたが、今季は世界の新世代と共に戦う一人のアスリートとして、違う景色の中で戦っています。それでも、63勝・通算116回の表彰台(男女通じて歴代最多)を持つレジェンドが、なお世界のトップ10に名を連ねている事実は、やはり特別です。
「表彰台に乗っている姿を見せたい」――振り袖で迎えた新年の誓い
年始、高梨は華やかな振り袖姿でインタビューに応じ、ミラノ・コルティナへ向けて「表彰台に乗っている姿を見せたい」と新年の誓いを口にしました。北京2022の混合団体で味わった失意から4年。「点と点が線になりつつある」と表現したように、長い時間をかけて続けてきたフォームの修正やメンタルの整理が、ようやく一つの形になりつつあります。
かつての「勝って当たり前」の頃とは、背負うものが大きく違う今。それでも振り袖姿で語る表情には、どこか肩の力が抜けた柔らかさもありました。「それでも、自分はまだ飛びたい」という、静かな決意がにじんでいます。
失意の北京から、「自分らしく飛ぶ」まで
あの日、北京のナイトゲームで起きたスーツ規定違反による失格は、日本中の心に深く刻まれています。誰よりも自分を責めたのは、おそらく本人でした。それでも高梨は、ジャンプ台から離れることを選びませんでした。
フォームをゼロから見直し、助走で後ろ気味だった姿勢を改善しながら、「どうすればもう一度、自分のジャンプを信じられるか」を探してきた数年。その過程は、2025年秋に公開されたインタビューでも語られています。そこには記録ではなく、「自分らしく飛ぶこと」を大切にしようとする、29歳の等身大の姿がありました。
「ビッグジャンプを飛べるように頑張っていきたい」。その言葉どおり、今季の高梨は、Falunやラハティなどのビッグヒルでも、トップと遜色ない飛距離を見せています。順位表の数字だけでは読み切れない、「あと一歩」の感触が、確かに積み上がりつつあります。
ミラノ・コルティナで見るべき「高梨沙羅のジャンプ」
では、ミラノ・コルティナのバル・ディ・フィエンメで、私たちは高梨のどこに注目すればいいのでしょうか。ポイントは大きく3つだと感じます。
- 助走からテイクオフへの「つながり」
昨季まで課題とされてきた助走姿勢は、今季かなり安定しています。踏み切りのタイミングが合ったときの「鋭く、低く伸びる」飛び出しは、依然として世界屈指のものです。 - 空中での安定感とスタイルポイント
身長152センチという小柄な体を生かした、無駄のないコンパクトな空中姿勢は健在。飛距離でわずかに劣っても、テレマークをきっちり決めたときのスタイルポイントは、高梨の大きな武器です。 - 「4人の縦列」になった日本女子ジャンプの中で
丸山希、勢藤優花、伊藤有希、そして高梨沙羅。4人全員が五輪でメダル争いに絡める実力者になりました。若い丸山が前を引っ張り、ベテランの高梨と伊藤が経験で支え、その間を勢藤がつなぐ。ミラノ・コルティナでは、チーム全体としての戦い方にも注目です。
個人戦はもちろん、ミックス団体でも日本にチャンスはあります。世界最多のW杯63勝を誇るレジェンドが、今度こそ五輪という舞台で、心から笑って終われる大会にできるのか。ミラノ・コルティナは、数字だけでは測れない「物語」のクライマックスになるかもしれません。
「WINTER NOTE」として見届けたい一冬の結末
張家口のナイターで、風に揺れる照明の下を飛んだ4位のジャンプ。その先には、蔵王と札幌での国内4連戦が待っています。かつて幾度となく勝利を刻んだホームのジャンプ台で、どんなジャンプを見せてくれるのか。そしてミラノ・コルティナで、高梨沙羅はどんな表情で空を見上げるのか。
結果がどうであれ、ここまでの道のりを知る者にとって、その一跳躍にはきっと特別な重さがあります。この冬の終わりに、「あの4位から、ここまで来たね」と振り返ることができるように――WINTER NOTEとして、その一瞬を見届けたいと思います。
