「そだねー」から銀メダルへ──ロコ・ソラーレが北京2022で見せたチームの強さ

WINTER SPORTS

2025年11月20日

「そだねー」の掛け声と、コロコロ変わる表情。その明るさの裏に、世界の頂点を本気で目指す覚悟があった──。北海道北見市常呂町を拠点とする女子カーリングチーム、ロコ・ソラーレ(日本代表)は、北京2022冬季オリンピック女子カーリングで銀メダルを獲得。平昌2018の銅に続き、日本カーリング史上初の「銀色のメダル」で、競技の存在感を一気に押し上げました。

ロコ・ソラーレとは──常呂から世界へ

ロコ・ソラーレは2010年に発足した、日本を代表する女子カーリングチームです。チーム名は、「地元」を意味するローカル(local)や常呂っ子(Tokorokko)の「ロコ」と、イタリア語で太陽を意味する「ソラーレ(solare)」を組み合わせたもの。「常呂の太陽のように世界で輝いてほしい」という願いが込められています。

北海道北見市常呂町は、日本でも有数のカーリングタウン。アドヴィックス常呂カーリングホールには、子どもからシニアまで多くのカーラーが集まり、氷上の「日常」を積み重ねてきました。その環境から生まれたのが、藤澤五月、吉田知那美、鈴木夕湖、吉田夕梨花、石崎琴美という北京2022の日本代表メンバーです。平昌2018では銅メダル、そして北京2022では銀メダルと、まさに「故郷から世界へ」を体現してきました。

ギリギリでつかんだ準決勝──一次リーグのドラマ

北京2022女子カーリングには10カ国が参加し、まずは総当たりの一次リーグ(ラウンドロビン)を戦います。上位4チームだけが準決勝へ進出するという厳しいフォーマットです。

日本は序盤から接戦の連続。最終的な一次リーグの成績は、スイスが8勝1敗で首位、スウェーデンが7勝2敗で続き、その後ろにイギリスと日本、カナダがいずれも5勝4敗で並ぶ大混戦となりました。特にイギリス・日本・カナダの3チームは、三つ巴で「直接対決の勝敗も三すくみ」という状態。最終的には、試合前のラストショット・ドローの平均距離(ハンマー権を決めるために行う事前投球)の差で、日本とイギリスが準決勝進出、カナダが涙を飲む形になりました。

順位 国・地域(スキップ) 成績(勝-敗) 備考
1位 スイス(シルバナ・ティリンツォーニ) 8-1 一次リーグ首位・準決勝進出
2位 スウェーデン(アンナ・ハッセルボリ) 7-2 準決勝進出
3位 イギリス(イヴ・ミュアヘッド) 5-4 準決勝進出
4位 日本(藤澤五月) 5-4 準決勝進出
5位 カナダ(ジェニファー・ジョーンズ) 5-4 ラストショット・ドローの差で敗退
6位 アメリカ合衆国 4-5
7位 中国 4-5
8位 韓国 4-5
9位 デンマーク 2-7
10位 ROC(ロシア・オリンピック委員会) 1-8

※北京2022大会公式サイトおよび世界カーリング連盟の結果ページをもとに作成。

日本にとって印象的だったのは、崖っぷちからの粘り強さです。予選終盤にはスイスやカナダなど強豪との連戦が続き、一時は敗退濃厚と見られました。しかし、最後まで「自分たちのカーリング」を貫いたことで、わずかな差で準決勝の切符をつかみ取ります。この“ギリギリ”もまた、ロコ・ソラーレらしいドラマでした。

世界王者スイス撃破──日本カーリング史上初の決勝へ

準決勝の相手は、一次リーグ1位のスイス。世界選手権連覇中の絶対的王者に対し、日本は序盤から我慢の展開を強いられます。それでも、第5エンドに藤澤のダブルテイクアウトが決まり、一気に4点をスチール。このビッグエンドで流れをつかんだ日本は、最後まで落ち着いてゲームをコントロールし、最終スコア8-6でスイスを撃破しました。

平昌2018での銅メダル獲得に続き、今度は決勝進出。オリンピックの舞台で、日本カーリングが「世界のトップ4」どころか「決勝の常連」を狙える存在になった瞬間でした。

決勝・イギリス戦10-3──笑顔と悔しさが同居した9エンド

決勝の相手はイギリス。一次リーグでは10-4で完敗した相手であり、ある意味で“リベンジマッチ”でもありました。試合は第1エンドから動きます。イギリスが確実に2点を取り先制。日本も中盤で反撃を試み、シングルテイクでコツコツと点差を詰めようとしますが、イギリスはリスクを抑えたショット選択で大きな失点を許しません。

勝負を決定づけたのは第7エンド。日本が1点ビハインドの場面で、イギリスはラストストーンを完璧に決めて4点を獲得。一気にスコアは8-2となり、流れは完全にイギリスへ。その後も日本は最後まで笑顔を絶やさずプレーを続けましたが、第9エンドでさらに2点を失い、最終スコアは10-3。日本は第10エンドを残してコンシード(ギブアップ)し、銀メダルが確定しました。

スコアだけを見れば、イギリスの完勝。しかし、そこに至るまでの日本の一投一投には、平昌から積み重ねてきた4年間が凝縮されていました。苦しい場面でもお互いに笑顔で声を掛け合い、「大丈夫」「ナイス」「自分たちらしく行こう」と言い続ける姿こそ、ロコ・ソラーレの真骨頂です。

「そだねー」が変えた、日本のカーリングの見え方

ロコ・ソラーレが一躍全国区になったのは、平昌2018のとき。「そだねー」の相づちや、もぐもぐタイムでのおやつタイムが話題になり、競技の枠を超えて親しまれる存在となりました。北京2022では、その「ゆるさ」と「強さ」の両方が、さらに洗練された形で表現された大会だったと言えます。

氷上では世界トップレベルの精度でショットを決めながら、ハドルではリラックスした会話でお互いをほぐしていく。ミスをした選手がいれば、誰かがすぐに冗談まじりの一言で空気を変える。そんな姿が画面越しにも伝わり、多くの視聴者が「このチームをもっと見たい」と感じるきっかけになりました。

北京の銀メダルの先に──ロコ・ソラーレと日本カーリングのこれから

北京2022後も、ロコ・ソラーレは世界のトップシーンで戦い続けています。2022年シーズンにはパンコンチネンタルカーリング選手権で優勝し、翌2023年にはカナダで行われたグランドスラム「Canadian Open」を制覇。日本勢として初めて、世界最高峰シリーズのタイトルをつかみ取りました。北京での銀メダルはゴールではなく、「世界一」を本気で狙うための通過点になりつつあります。

一方で、チーム編成に変化もあります。北京でフィフスとしてチームを支え、日本の冬季五輪史上最年長メダリストにもなった石崎琴美が2024年にチームを離れ、現在は4人編成で新たな挑戦を続けています。世代交代が進む中でも、「Stay Positive, Keep Smile(前向きに、笑顔で)」というチームのスタイルは変わりません。

北京での銀メダルは、メダルの色以上に「日本でもカーリングはここまでできる」という証明でした。地元・常呂のリンクから世界の大舞台へ。その物語は、ミラノ・コルティナ2026、そしてその先の世代へと確実に受け継がれていくはずです。