北京2022冬季オリンピックのスノーボード&フリースタイル種目は、「新世代が主役の時代」が本格的に始まった瞬間として記憶される大会だった。男子ハーフパイプで96.00点の衝撃スコアをたたき出した平野歩夢、女子ハーフパイプで悲願のメダルに手を伸ばした冨田せな、そして女子ビッグエアで17歳3か月にして表彰台に上がった村瀬心椛。さらにはフリースタイルスキーのアイコンとなったアイリーン・グーや、モーグルで日本勢初のメダルを獲得した堀島行真。10代〜20代前半の選手たちが、立て続けに歴史を書き換えていった。
ここでは、北京2022を起点に一気に存在感を高めた“若手スノーボーダー&フリースタイル勢”にフォーカスしながら、日本人選手を中心に、その現在地とミラノ・コルティナ2026へ続く未来図を描いてみたい。
96.00点の頂点へ――平野歩夢が塗り替えたハーフパイプの常識
男子スノーボード・ハーフパイプ決勝。3本目のランに入る前、平野歩夢は2大会連続銀メダルの重圧と、2本目に決めた超大技「トリプルコーク1440」が期待したほどの得点にならなかった悔しさを抱えていた。それでも彼は迷わず、自分が信じてきた最難度構成をもう一度選ぶ。
ドロップインから一気に加速して飛び出した一本目のヒットで、再びトリプルコーク1440。そこからダブルコーク1440を絡めた怒涛のコンボをクリーンにメイクし、着地で拳を握る。スコアボードに表示されたのは「96.00」。この瞬間、オーストラリアのスコッティ・ジェームズが持っていた92.50を逆転し、日本人として初めて男子ハーフパイプの金メダルを手にした。
15歳でソチ2014銀メダル、平昌2018でも銀、そして北京2022で金。10代から世界の頂点を走り続けてきた平野歩夢は、まだ20代前半という年齢で、すでに“レジェンドと新世代”の両方の顔を持つ存在になっている。決勝には弟の平野海祝も進出しており、「兄弟で同じ決勝を滑る」という新しい物語も生まれた。
北京で示されたのは、単なるメダル獲得以上に、「トリプルコークがスタンダードになっていく時代」の幕開けだった。男子ハーフパイプは、もはや“高さとスタイル”だけでは勝てない。極限まで回転数を高めながら、いかにクリーンに、いかに美しく見せるか。そのバランスを最前線で模索しているのが、今の若い世代だ。
女子ハーフパイプの新章――冨田せなが切り開いた「銅メダル」の意味
女子ハーフパイプは、アメリカのクロエ・キムが別次元の滑りで連覇を達成した種目だった。しかし、日本人の視点から見れば、この競技の主役の一人は間違いなく冨田せなだったと言っていい。
4年前の平昌では8位に終わり、悔しさを胸に鍛え直してきた冨田。北京の決勝では、バックサイド900や1080など、高さと回転数を両立させたルーティンをまとめ、最終的に88.25点で銅メダルを獲得した。銀メダルはスペインのケアルト・カステレット、金メダルは94.00点を叩き出したクロエ・キム。まさに世界最強クラスの中で、日本人が堂々と表彰台中央に食い込んだ形だ。
さらに、この種目では妹の冨田るき、若手の小野光希も決勝に進出し、日本女子ハーフパイプ陣が“世界最強クラスのチーム”であることを証明した。ワールドカップの総合ランキングでも、日本人選手が上位を占めるシーズンが続いており、「日本発のスタイル」が女子ハーフパイプのトレンドを作っていると言っても過言ではない。
公式結果から見る女子ハーフパイプ決勝トップ3
| 順位 | 選手 | 国 | 最終スコア |
|---|---|---|---|
| 1位 | クロエ・キム | アメリカ | 94.00 |
| 2位 | ケアルト・カステレット | スペイン | 90.25 |
| 3位 | 冨田せな | 日本 | 88.25 |
この順位表を改めて見ると、メダリスト3人はいずれも20代前後。加えて、決勝に残った他の選手たちも10代後半から20代前半が中心で、女子ハーフパイプが「若い世代が牽引する時代」に完全に突入したことがわかる。北京2022を通じて、女子の技術レベルは男子に迫る勢いで進化を続けており、その最前線に日本の選手たちが立っている。
関連動画:女子ハーフパイプ決勝ハイライト(公式)
17歳3か月、村瀬心椛の銅メダル――女子ビッグエアが見せた“未来の形”
女子スノーボード・ビッグエアは、巨大ジャンプ台を舞台にした「一発勝負」の世界だ。北京2022の女子ビッグエア決勝は、その象徴のようなドラマが詰まった一戦だった。
優勝したのは、平昌2018に続く連覇を果たしたオーストリアのアンナ・ガッサー。2位にはニュージーランドのゾイ・サドウスキー・シノット、そして3位に入ったのが日本の村瀬心椛だった。最終的なスコアは、ガッサーが185.50、サドウスキー・シノットが177.00、村瀬が171.50。いずれも1440やそれ以上の回転を絡めた超高難度トリックをクリーンに決めなければ届かない数字だ。
しかも村瀬は、このときまだ17歳3か月。アジア・オリンピック評議会(OCA)のまとめによれば、冬季オリンピックでメダルを獲得した日本人女性として史上最年少だったとされる。高校生ながら世界のビッグエアシーンで主役級の存在となった村瀬は、その後もワールドカップや世界選手権でタイトルを重ね、現在も女子ビッグエアの“顔”の一人だ。
同じ決勝には、岩渕麗楽や鬼塚雅といった日本のトップライダーも名を連ねており、「日本女子は誰が勝ってもおかしくない」層の厚さを世界に見せつけた大会でもあった。北京2022の女子ビッグエアは、技の難度だけでなく、“日本チーム全体のポテンシャル”を再認識させる舞台だったと言える。
公式結果から見る女子ビッグエア決勝トップ3
| 順位 | 選手 | 国 | 合計スコア |
|---|---|---|---|
| 1位 | アンナ・ガッサー | オーストリア | 185.50 |
| 2位 | ゾイ・サドウスキー・シノット | ニュージーランド | 177.00 |
| 3位 | 村瀬心椛 | 日本 | 171.50 |
関連動画:若手スノーボーダーたちを特集した公式ハイライト
関連ポスト:男子ビッグエア金メダリスト・蘇翊鳴のXポスト(Olympics公式)
男子ビッグエアでは、中国の蘇翊鳴(スー・イーミン)が金メダルを獲得し、こちらも18歳の若さで歴史を塗り替えた。北京2022は、開催国・中国にとっても“新世代が主役”の大会だった。
フリースタイルスキーの新星たち――アイリーン・グーと堀島行真
スノーボードと並んで、北京2022でもっとも注目度が高かったのがフリースタイルスキーだろう。なかでも象徴的な存在が、アイリーン(グー・アイリン)・グーだ。女子ビッグエアで金、スロープスタイルで銀、そしてハーフパイプで再び金。1大会で3つのメダルを獲得し、18歳にして一気に“フリースタイル界のアイコン”となった。
グーの滑りの特徴は、難度だけではなく、“スキーの線の美しさ”と“着地の正確さ”にある。ビッグエアではダブルコークを絡めたコンボを精度高く決め、ハーフパイプでは、両方向への900〜1080クラスのトリックを均等に散りばめながら、スタイリッシュにまとめていく。単純な「難度競争」ではなく、全体として完成度の高いランを構成することで他の選手を引き離していった。
一方、日本勢で存在感を示したのが、男子モーグルで銅メダルを獲得した堀島行真だ。世界選手権2冠の実力者は、北京でも安定したターンと高いエアを武器に表彰台へ。モーグルは日本が長年得意としてきた種目だが、北京でのメダル獲得は意外にも男子では初。堀島は、日本男子モーグルの「新しいスタートライン」を作ったと言っていい。
ミラノ・コルティナ2026へ――進化を続ける“新世代”の行き先
北京2022からミラノ・コルティナ2026へ向かうこの4年間、スノーボードとフリースタイルの世界はさらに加速している。女子ハーフパイプでは、クロエ・キムがダブルコーク1080を武器に世界選手権3連覇を達成し、その表彰台には日本の清水さら、小野光希といった新世代の名前も並び始めた。男子ハーフパイプでは、ワールドカップやX Gamesで平野歩夢や平野海祝、平良碧空、平良光来ら日本勢が目覚ましい活躍を見せている。
ビッグエアに目を向ければ、村瀬心椛はすでに女子で最も難しいレベルのトリックをメイクするライダーの一人となり、男子では北京2022で躍進した蘇翊鳴を筆頭に、世界中の若手が「トリプル、さらにはそれ以上」を当たり前のように飛ぶ時代に入りつつある。フリースタイルスキーでも、ハーフパイプやスロープスタイルで10代〜20代前半の選手が次々と新技を投入し、採点基準自体がアップデートされている。
そしてもう一つ、見逃せない流れがある。それは、スノーボードとフリースタイルスキーを横断する新たなプロツアーやイベントの広がりだ。例えば、レジェンドのショーン・ホワイトが立ち上げた「Snow League(スノーリーグ)」には、平野歩夢や冨田せな、小野光希ら日本勢も名を連ね、ハーフパイプとフリースタイルを横断した新しいショーケースの場となりつつある。ここでも主役は、やはり10代〜20代前半の新世代だ。
“若さ”はゴールではなく、スタートライン
北京2022が教えてくれたのは、「若いからこそできる挑戦」がある一方で、「若さだけでは勝てない」という現実でもある。平野歩夢の96.00点は、10年以上にわたる積み重ねがあって初めて到達できた高みだし、冨田せなや村瀬心椛のメダルも、ジュニア時代から世界を転戦してきた経験の結果だ。
だが同時に、彼ら/彼女らはまだ成長の途中にいる。ミラノ・コルティナ2026、さらにはその先の2030年代に向けて、技の難度もスタイルも、そして競技のあり方そのものも大きく変わっていくだろう。その中心に立つのは、北京2022で私たちに強烈なインパクトを与えた“新世代”たちだ。
4年後、テレビの前で、あるいは現地のスタンドで、今よりもさらに進化したトリックと、新しい物語を目撃するとき。「あの北京から始まったよね」と振り返ることになるはずだ。
